認知科学|Cognitive Science 思考・行動のプロセスを研究する分野をデザインスタジオが解説

目次

認知科学とは

認知科学(Cognitive Science)は、人間や他の動物、さらには機械の知的なシステムとプロセスを研究する学際的な分野です。

この分野は、心理学、人工知能、言語学、哲学、神経科学、人類学など、多様な学問領域からの知見を統合しています。
認知科学の主な目的は、思考、知覚、記憶、言語、学習、意識などの認知プロセスを理解し、説明することです。ユーザーの認知プロセスを理解することで、より直感的で使いやすい製品やインターフェースを設計できます。例えば、色の使用、形状、レイアウト、ナビゲーションの設計などは、人間の知覚、注意、記憶の仕組みに基づいています。認知科学の原理を適用することで、ユーザー体験を向上させ、より効果的なデザインを実現できます。

今回は認知科学ではどんなことを知ることができるのかを解説します。

認知科学とデザインの関係性

認知科学とデザインの関係性は、デザイン思考やユーザーエクスペリエンスの分野で非常に重要です。
この関係性を理解する上で、デザイナーやデザインを学ぶ学生にとって必読の書籍が、D.A.ノーマン(ドナルド・A・ノーマン)の著書『誰のためのデザイン?』(原題 “The Design of Everyday Things”)です。この本は、製品やサービスのデザインがどのようにユーザーの認知プロセスに影響を与えるかを探求しています。

ノーマンは、人間中心のデザイン(Human-Centered Design)の概念を提唱し、製品やサービスがどのように直感的で理解しやすいものであるべきかを説明しています。彼は、人々が物事をどのように知覚し、理解し、操作するかに焦点を当て、デザインがこの認知プロセスをサポートする方法を示しています。
例えば、ドアのハンドルのデザインがどのようにして「押す」か「引く」かの行動を暗示するかなど、日常生活の中のデザインの例を豊富に取り上げています。


【認知科学】行為の七段階理論

行為の七段階理論は、認知科学の分野で重要な概念の一つで、特に人間の意思決定プロセスと行動に関連しています。

この理論は、『誰のためのデザイン?』で詳細に説明されています。
人間の思考がほとんど潜在意識によって行われているという考えに基づいており、私たちの日常生活における意思決定や行動の背後にあるプロセスを明らかにします。

行為には2つあります。行為の実行と結果の評価、物がどう動きどんな結果を生み出すのか。七段階の行為のサイクルがあります。

①ゴールの形成

ゴールの形成は、行動を起こすための最初のステップです。この段階では、個人が達成したい目標や望む結果を明確にします。例えば、「健康になる」というゴールを設定することがあります。このゴールは、具体的で測定可能なもの(例:毎日30分間の運動をする)に変換されることが理想的です。ゴールが明確で具体的であればあるほど、その後の行動が効果的に導かれます。この段階は、行動全体の方向性を決定するために不可欠です。

②【実行過程】意図の形成

意図の形成は、設定されたゴールに基づいて具体的な行動を計画する段階です。この段階では、ゴールを達成するための手段や方法を考え出します。例えば、「毎朝ランニングをする」という意図を形成することが考えられます。意図は、行動の具体的な内容やタイミングを決定するために必要であり、行動を実行に移すための橋渡し役を果たします。この段階で明確な意図が形成されると、行動の実行がスムーズに進む可能性が高まります。

③【実行過程】行為の詳細化

行為の詳細化は、形成された意図をさらに具体的な行動ステップに分解するプロセスです。この段階では、行動を実行するための具体的な手順や必要なリソースを特定します。例えば、「ランニングシューズを準備し、毎朝6時に起床して近くの公園に行く」といった詳細な行動計画を立てることが含まれます。このプロセスにより、行動が具体的で実行可能な形になり、実行の確実性が高まります。

④【実行過程】行為の実行

行為の実行は、詳細化された行動計画を実際に実行する段階です。この段階では、個人が計画した行動を取り、物理的なアクションを起こします。例えば、「実際に朝6時に起きてランニングに出かける」ことがこの段階に該当します。行為の実行は、前の段階で詳細に計画された手順に従って行われます。この段階での成功は、前段階の計画の精度と個人のモチベーションによって左右されます。

⑤【評価過程】外界の状況の知覚

外界の状況の知覚は、行動を実行した後に、周囲の環境や行動の結果を感知する段階です。ここでは、実行した行動がどのように外界に影響を与えたかを視覚や聴覚などの感覚を通じて確認します。例えば、「ランニング中に自分の呼吸が速くなったり、心拍数が上がったことを感じる」ことがこの段階に含まれます。この感覚的なフィードバックは、次の段階での解釈に重要な役割を果たします。

⑥【評価過程】外界の状況の解釈

外界の状況の解釈は、知覚した情報を基に、その意味を理解する段階です。この段階では、実行した行動が期待した結果を生んだかどうかを評価します。例えば、「ランニング後に感じた疲労感や達成感を基に、自分の体力が向上しているかどうかを判断する」ことが含まれます。この解釈により、次の行動に向けた調整や改善点を見出すことができます。解釈の精度は、今後の行動の効果を左右します。

⑦【評価過程】結果の評価

結果の評価は、解釈した情報を基に、行動がゴールにどれだけ近づいたかを評価する段階です。この段階では、最初に設定したゴールに対する進捗状況を確認し、必要な修正を加えます。例えば、「ランニングを継続することで健康維持に貢献できているかどうかを評価し、必要に応じて運動強度を調整する」ことが含まれます。この評価を通じて、次のゴールや意図を形成するためのフィードバックループが完成します。


頭の中の知識と外界の知識

内部表象

内部表象は、個体の認知システム内に蓄積された知識の構造です。これには、エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶などが含まれます。
この概念は、情報処理理論において中心的な役割を果たし、認知活動(例えば、推論、計画、問題解決)の基盤となります。
内部表象は、ワーキングメモリの限界、長期記憶の構造、忘却曲線など、認知心理学の多くの理論によって形作られます。

外部表象

外部表象は、個体の外部環境に存在する知識の形態を指します。これには、書籍、データベース、社会的ネットワーク、環境的手がかりなどが含まれます。
この概念は、情報の外部化という観点から重要であり、個体が直接持っていない情報へのアクセスを可能にします。
外部表象は、情報のアクセシビリティ、情報源の信頼性、情報の表現方法などに依存し、これらは認知負荷理論や情報検索理論によって分析されます。


アフォーダンス

アフォーダンスは、環境が個体に提供する行動の可能性を指します。つまり、物体や環境が個体に「何ができるか」を示唆する特性です。

アフォーダンス(Affordance)という概念は、心理学者ジェームズ・J・ギブソンによって1970年代に提唱されました。彼の著書『The Ecological Approach to Visual Perception』(1979年出版)で初めて詳細に説明されたこの概念は、環境心理学およびデザインの分野で広く受け入れられています。

ギブソンの理論では、アフォーダンスは物体の物理的特性と、それを使用する個体の能力との関係に基づいています。
例えば、椅子は「座るための」アフォーダンスを提供し、
ドアのノブは「回して開ける」アクションのアフォーダンスを持っています。
これらのアフォーダンスは、物体の形状、サイズ、位置などの物理的特性によって決まりますが、それを利用する個体の能力や経験によっても異なります。

特にユーザーインターフェースデザインや製品デザインにおいて重要です。デザイナーは、ユーザーが製品やインターフェースを直感的に理解し、適切に使用できるように、アフォーダンスを考慮してデザインを行います。例えば、スマートフォンの画面上でスワイプやタップといったジェスチャーは、ユーザーに特定のアクションを促すアフォーダンスを提供します。

『誰のためのデザイン?』でアフォーダンスの概念をさらに発展させました。ノーマンは、物体が持つアフォーダンスと、それがユーザーにどのように知覚されるか(知覚されるアフォーダンス)の区別を導入しました。彼は、デザインがユーザーに対して正しいアフォーダンスを伝えることの重要性を強調しています。

アフォーダンスの概念は、人間と物理的な世界との相互作用を理解する上で非常に有効です。この理論を適用することで、より使いやすく、直感的な製品や環境をデザインすることが可能になります。

シグニファイア

「シグニファイア(Signifier)」は、何かを示すための指標、つまり、ある意味や機能を伝えるための物理的な手がかりや象徴を指します。シグニファイアは、特定の意味やメッセージを伝達するために存在し、受け手に特定の情報を伝える役割を果たします。

シグニファイアの概念は、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールによって初めて詳細に説明されました。彼の理論では、言語の記号は「シグニファイア(指示するもの)」と「シグニファイド(指示されるもの、つまり意味)」の二つの部分から成り立っています。例えば、言葉「木」は、実際の木を指すシグニファイア(音声パターン)と、私たちの頭の中で想起される木の概念(シグニファイド)を結びつけます。

『誰のためのデザイン?』でもシグニファイアの概念を取り入れ、それを製品やインターフェースデザインに応用しました。ノーマンによれば、シグニファイアは製品やシステムの使用方法をユーザーに伝えるための重要な要素です。例えば、ドアに取っ手がついていると、それは「引く」動作を示唆するシグニファイアとなります。このように、シグニファイアはユーザーに対して、どのように製品を使用すべきかの手がかりを提供します。

シグニファイアの使用は、ユーザーが直感的に製品やシステムを理解し、効果的に操作できるようにするために不可欠です。良いデザインは、適切なシグニファイアを通じて、ユーザーに対して明確で理解しやすいメッセージを伝えることができます。逆に、シグニファイアが不明確または誤解を招く場合、ユーザーは混乱し、製品やシステムの使用に問題を抱える可能性があります。

デザインスタジオPuzzle of Effectの認知科学

Puzzle Effectでは、認知科学を中心とし誘導と体験を重要視して制作をおこなっています。

認知科学を利用したデザインやビジネスや教育に関する事柄を行いたい方やご興味が湧いた方はぜひご連絡・ご相談ください。

まとめ

この学際的な分野は、心理学、神経科学、言語学、人工知能など、多様な学問領域を包括しています。認知科学の進展は、教育、医療、テクノロジー、さらには日常生活における意思決定に至るまで、私たちの生活のあらゆる側面に影響を与えています。この分野は、人間の行動と思考のクセを見抜いてデザインに用いましょう。

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