体験デザイン|モノからコトへ!機能だけじゃない体験価値の創造

体験デザイン(Experience Design)とは、製品やサービスそのものだけではなく、それを知り、選び、利用し、利用した後まで含めて、人がどのような経験をするのかを考えて設計することです。

使いやすさや機能性だけでなく、「分かりやすい」「安心できる」「楽しい」「心地よい」「また利用したい」といった感情や印象まで含めて考えることが特徴です。

例えば、ホテルであれば客室の内装だけが体験ではありません。予約サイトの分かりやすさ、予約後の案内、ホテルへの入りやすさ、チェックイン、スタッフの接客、客室で過ごす時間、チェックアウト、その後の連絡まで、利用者が接する一連の流れが一つの経験になります。

そのため、Webサイトやアプリだけでなく、商品、店舗、施設、サービス、接客、広告、イベント、ブランドなど、さまざまな分野で体験デザインの考え方が活用されています。

本記事では、体験デザインとは何か、UXやユーザビリティとの違い、なぜ重要なのか、そしてカスタマージャーニーやストーリーボードなど、実際のデザイン現場で使われる代表的な手法まで分かりやすく解説します。

目次

体験デザインとは

体験デザインとは、製品やサービスに触れる人の「体験」そのものを中心に据えて設計する考え方です。

単なる機能性や見た目の美しさだけではなく、利用者が何を見て、どう理解し、どのように行動し、その結果どんな気持ちになるのかまで考えて設計します。

例えば、ネットショップで商品を購入する場合を考えてみましょう。

商品ページが見やすくても、購入方法が分かりにくかったり、送料が最後まで表示されなかったり、注文後に確認メールが届かなかったりすると、不安や不満につながります。

反対に、商品を見つけやすく、必要な情報が分かりやすく整理され、購入手続きが簡単で、注文後にも適切な案内が届けば、利用者は安心して買い物を進めることができます。

つまり、優れた経験は一つの画面や機能だけで決まるものではありません。

「知る→興味を持つ→比較する→利用する→利用後にどう感じるか」まで、一連の流れとして考えることが体験デザインでは重要です。

体験デザインは正式な言葉ではなく、一般的にUXと呼ばれることが多く、デジタル製品だけに限定されるものではなく、店舗や接客、空間、イベント、ブランドなども含め、人が接するさまざまな場面を一つの経験として捉える考え方として使われることがあります。

ユーザーの体験を一番に考えた課題解決の方法

体験デザインでは、提供する側が「何を作りたいか」だけではなく、利用する人が何をしたいのか、何に困っているのか、どのように感じるのかという視点から課題を考えます。

単に問題を解決するだけでなく、「どうすれば心地よく、自然にその解決策を利用してもらえるか」まで考えることが特徴です。

例えば、病院の受付で待ち時間が長いという問題があったとします。

単純な解決策としては「受付時間を短くする」が考えられます。しかし、実際に利用者を観察すると、待ち時間そのものよりも「あと何分待つのか分からない」「自分の順番が飛ばされていないか不安」ということが大きなストレスになっているかもしれません。

その場合、待ち時間を短縮するだけでなく、現在の受付状況や待ち時間の目安を表示することでも経験を改善できます。

このように、表面的な問題だけでなく、その場で生まれている行動や感情まで理解して解決策を考えることが大切です。

また、必ずしも「驚き」や「感動」を生み出す必要があるわけではありません。サービスによっては、「迷わない」「不安にならない」「間違えない」「必要なことがすぐ分かる」といった、ストレスの少ない経験をつくることのほうが重要です。サービスの根本にある体験デザイン

優れたサービスの根底には、必ずといってよいほどUX設計や体験デザインの考え方があります。サービスは目に見えない価値の提供であるため、利用者がどう感じたか、どう記憶したかが満足度を左右します。

予約から利用後のフォローに至るまで、すべての接点が「体験」としてデザインされているかが重要です。こうした設計により、単なる利便性だけでなく、ブランドへの信頼や愛着が育まれていくのです。

ユーザビリティと体験デザインの違い

ユーザビリティは「使いやすさ」や「操作性」に特化した設計指標であり、体験デザインの一部に含まれます。一方、体験デザインは「どう感じたか」や「記憶に残ったか」までを含む、より広い視点のアプローチです。

たとえば、あるアプリが直感的に操作できる(ユーザビリティ)だけでなく、使っていて楽しい、また使いたいと思える(体験デザイン)ことが理想です。両者は連携しながら、よりよい価値提供を目指します。

プロダクトではなく体験の提供を中心に考える

現代のサービス設計では、単に優れたプロダクトを提供するだけでなく、その商品やサービスを通して「どのような経験を提供するのか」を考えることが重要になっています。

利用者が価値を感じるのは、必ずしも製品そのものだけではありません。

例えばコーヒーショップでは、コーヒーの味だけでなく、店を見つける、入店する、注文する、商品を待つ、席を探す、店内で過ごす、退店するといった一連の流れがあります。

アプリから事前注文する場合であれば、店舗を訪れる前からすでに経験は始まっています。

この一つひとつの接点をタッチポイント(Touchpoint)と呼びます。

Webサイト、SNS、広告、店舗、パッケージ、スタッフとの会話、メール、アプリ、問い合わせ窓口など、利用者と企業・サービスが接する場所はすべてタッチポイントになり得ます。

重要なのは、一つひとつを個別に良くするだけではありません。

広告では高級感を打ち出しているのに、Webサイトでは雰囲気が大きく異なり、店舗ではスタッフの説明まで違っていれば、一貫したブランドとして感じにくくなります。

反対に、それぞれの接点で情報や対応、デザインの方向性がつながっていれば、利用者はサービス全体に対して安心感や信頼感を持ちやすくなります。

そのため体験デザインでは、個々の接点だけでなく、接点同士のつながりまで設計することが重要です。

体験する人の目線に立つことが重要

体験デザインにおいて最も重要なのは、提供側の都合だけではなく、体験する相手の視点から考えることです。

企業側では当たり前になっている仕組みでも、初めて利用する人には理解できないことがあります。

「説明しているから分かるはず」
「このボタンを押すのは当然」
「この順番で進むはず」

といった提供側の思い込みと、実際の利用者の行動が一致しているとは限りません。

そこで、インタビューやアンケートだけでなく、実際の利用状況を観察したり、利用者自身に操作してもらったりすることで、言葉だけでは見つからない問題を探ります。

例えば、本人は「特に困っていない」と答えていても、実際には同じ場所を何度も見返していたり、操作する前に長く迷っていたりすることがあります。

こうした「言っていること」だけではなく「実際にしていること」まで見ることで、本当の課題を発見しやすくなります。

サービスを提供する側の体験も考える

体験デザインは、顧客だけを考えればよいとは限りません。

サービスの多くは、スタッフや社員、システム、業務フローなどによって支えられています。

例えば「問い合わせには5分以内に回答する」という理想的な顧客対応を設計しても、スタッフが複数のシステムから顧客情報を探さなければならない状態では、継続して実現することは難しくなります。

そのため、顧客に見える部分だけでなく、その経験を提供するための業務環境や仕組みまで考えることが必要になる場合があります。

社員やスタッフが使うツールの分かりやすさ、情報共有、業務フロー、権限、教育などを改善することで、結果として顧客へのサービス品質も安定します。

特にサービスデザインでは、利用者から見える「表側」だけでなく、それを支えるスタッフやシステムなどの「裏側」まで含めて設計することが重視されています。

体験デザインの設計

体験デザインを行うときは、いきなり「良い経験とは何か」を想像してデザインするのではなく、まず現在どのような経験が起きているのかを理解することから始めます。

利用者へのインタビューや観察、アンケート、アクセス解析、問い合わせ内容などから、行動やニーズ、不満、不安、期待などを調べます。

そのうえで、

誰が利用するのか
何を達成したいのか
どのような順番で行動するのか
どこで迷ったり不安になったりするのか
どの接点を改善すれば経験全体が良くなるのか

を整理します。

そして改善案を考え、必要に応じて画面、模型、シナリオなどの簡易的なプロトタイプを作り、実際の利用者に試してもらいます。

つまり、体験デザインはデザイナーが頭の中だけで完成させるものではありません。

「理解する→整理する→設計する→試す→改善する」

という流れを繰り返しながら、実際の利用者に合ったものへ近づけていきます。
その過程で使われる代表的な方法が、カスタマージャーニーやストーリーボード、デザイン思考、人間中心設計などです。

カスタマージャーニー

カスタマージャーニーとは、利用者が商品やサービスを知ってから、比較、購入、利用、利用後まで、どのような行動を取るのかを時系列で整理する方法です。

単に行動だけを並べるのではなく、

行動
目的
考えていること
感情
タッチポイント
困っていること

などを一緒に整理することで、サービス全体を利用者の視点から見ることができます。

例えばホテルなら、「ホテルを探す→比較する→予約する→ホテルへ向かう→チェックイン→宿泊→チェックアウト→帰宅後」という流れがあります。

その中で、「予約画面では安心していたが、ホテルまでの道順が分からず不安になった」「チェックインはスムーズだったが、館内設備の説明が分からなかった」といった感情の変化まで整理します。
こうすることで、個々の画面や設備だけを見ていては分からなかった問題を発見できます。

カスタマージャーニーは、経験を時間軸で捉え、どこに改善すべき接点があるのかを見つけるための代表的な方法です。

ストーリーボード

ストーリーボードは、利用者が製品やサービスに触れる様子を、イラストや写真、簡単な文章などを使って物語のように表現する方法です。「誰が・どこで・何をして・何を感じるか」を場面ごとに描くことで、文章や表だけでは理解しにくい状況を具体的にイメージできます。

例えば「駅で観光アプリを使う」というサービスであれば、

駅に到着する
↓
目的地を検索する
↓
案内を見る
↓
移動する
↓
途中で道に迷う
↓
再びアプリを確認する

といった場面を描きます。

すると、「歩きながらスマートフォンを見る状況では細かい文字は読みづらい」「屋外では画面が見えにくい」「通信環境が悪い可能性がある」など、画面だけを設計していると気づきにくい問題も見えてきます。ストーリーボードの目的は、絵をきれいに描くことではありません。

利用者が置かれる状況を具体化し、チームで同じ経験をイメージできるようにすることが重要です。

デザイン思考と人間中心設計

デザイン思考と人間中心設計も、体験デザインと深く関係しています。

デザイン思考は、利用者への共感や観察から課題を捉え、アイデアを考え、プロトタイプを作り、検証しながら解決策を改善していくアプローチです。

最初から完成形を決めるのではなく、実際に試しながら「そもそも解決すべき問題は何なのか」まで見直していくことを重視します。

一方、人間中心設計(Human-Centred Design)は、人のニーズや能力、利用状況を理解し、その理解に基づいて設計と評価を繰り返す考え方です。

両者に共通しているのは、提供側の思い込みだけで答えを決めず、実際に利用する人を理解しながら設計することです。

体験デザインでは、こうした考え方や手法を組み合わせながら、単なる「見た目の良いもの」ではなく、実際の行動や状況に合った経験をつくっていきます。

良い体験デザインとは

良い体験デザインというと、「感動する演出」や「驚きのあるサービス」を想像するかもしれません。

もちろん、それらが価値になる場合もあります。しかし、すべてのサービスに感動や驚きが必要なわけではありません。

銀行アプリであれば安心して送金できること、病院であれば迷わず受付できること、ECサイトであれば不安なく購入できること、公共施設であれば必要な場所へ迷わず移動できることのほうが重要です。

つまり、良い経験とは派手な演出ではなく、その人が、その状況で達成したいことを、できるだけ自然に達成できる状態をつくることから始まります。

そのうえで、

「期待していたより簡単だった」
「きちんと自分のことを考えてくれていると感じた」
「安心して利用できた」
「また使いたいと思った」

という感情につながれば、サービスやブランドに対する信頼や愛着も生まれていきます。

体験デザインは、ユーザーを意図した方向へ無理に誘導するためのものではありません。

利用する人の目的と、提供する側の目的をできるだけ自然につなぎ、双方にとって価値のある関係をつくることが重要なのです。

まとめ

体験デザインとは、製品やサービスの機能や見た目だけではなく、人がそれを知り、触れ、利用し、利用した後まで含めた一連の経験を考えて設計することです。

その対象はWebサイトやアプリだけではありません。

商品、広告、店舗、施設、接客、パッケージ、問い合わせ、アフターサポートなど、利用者とサービスの間に生まれるさまざまな接点が経験をつくっています。

そのため、良い体験をつくるには、一つの画面や制作物だけを見るのではなく、

誰が利用するのか。
何をしたいのか。
どのような状況で利用するのか。
どこで迷い、不安や不満を感じるのか。
利用した後にどのような印象が残るのか。

という流れまで考えることが重要です。

カスタマージャーニーやストーリーボード、デザイン思考、人間中心設計などは、その経験を理解し、可視化し、改善するための方法です。

そして体験デザインの本質は、必ずしも「感動させること」ではありません。迷わないこと、不安にならないこと、必要な情報が分かること、目的を達成できること。そのうえで心地よさや楽しさ、信頼、愛着などが生まれるように設計することが、より良い経験につながります。

Puzzle Effectでは、見た目を整えるだけではなく、「誰が、どこでデザインに触れ、何を感じ、どのような行動につながるのか」まで考えたブランディング・デザイン制作を行っています。

Webサイトやグラフィック、ブランドとの接点を通して、ユーザーにどのような経験を届けるべきか。そうした部分からデザインを考えたい方は、ぜひご相談ください。

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