デザイン思考とは、ユーザーの視点から課題を捉え、創造的な発想と試行錯誤を通じて解決策を導き出す思考法です。本記事では、デザイン思考の基本プロセス・活用方法・メリットや注意点、そしてその背景となる歴史までを丁寧に解説します。デザインスタジオPuzzle Effectのデザイン制作における基本で原則です。ぜひご一読ください!
デザイン思考とは
デザイン思考とは、デザイナーがデザインを行うときに行う思考方法をよりビジネスで活用できるようにフレームワーク化された思考法です。従来の分析的手法では掬いきれない潜在的ニーズや感情的インサイトに焦点を当て、共感・問題定義・アイデア・プロトタイプ・テストという反復的プロセスを通じて解決策を具体化していきます。
特徴は、「正解を先に決めずに、現場の声から答えを探す」というアプローチです。観察や共感から始まり、アイデアを出して試作し、実際の反応を見ながら改善を重ねます。たとえば、新しいサービスを考えるときに、先に仕様を固めるのではなく、ユーザーが何に困っているのか、どう感じるのかを深掘りしていくのがこの手法です。論理よりも人の体験を重視することで、想定外の価値や気づきが生まれるのが、デザイン思考の強みです。
重要なのは、最初から解を前提とせず、ユーザー理解と仮説検証を行き来することで、本質的な価値を可視化・具体化していく点です。今日の不確実性の高いビジネス環境において、デザイン思考は単なる“創造的発想法”ではなく、イノベーションを持続的に生み出すアプローチとして評価されています。
デザイン思考の目的
デザイン思考の目的は、単なる問題解決にとどまらず、「顧客にとって意味のある体験価値」を発見・設計し、持続的な事業価値に転換することにあります。
「人にとって本当に意味のある解決策を見つけること」
表面的な問題ではなく、もっと深い部分にある“気づかれていない課題”を見つけ、それに対してどう向き合うかを考えます。
新しい製品やサービスを考えるとき、すぐに答えを出すのではなく、いったん立ち止まって「本当に必要なのは何か?」を探る姿勢が重要です。
特にビジネスの現場では、顧客が何を感じ、何を期待しているかを理解しないと、的外れなものになりがちです。デザイン思考は、そういったズレを防ぎ、ユーザーと価値を一緒につくるための出発点になります。
ユーザーの明示的ニーズだけでなく、観察と共感から抽出される潜在的課題に着目し、従来の論理的思考だけでは到達し得ない革新的な解決策を導く点に特長があります。
ビジネスにおいては、製品・サービス開発だけでなく、組織変革や業務設計など多岐にわたる応用が可能です。すなわち、デザイン思考は「問題を解く」ための手段ではなく、「価値を創る」ための起点であり、企業の競争優位性を支える中核的な思考戦略といえます。
【デザイン思考】5段階プロセス
①共感【Empathize】ユーザーの気持ちを理解する
デザイン思考の最初のステップは「共感」です。これは、ユーザーが何に困っているのか、どんな場面で何を感じているのかを、できるだけその人の立場になって理解しようとする段階です。
アンケートや統計だけではわからない感情や行動の背景を掘り下げるため、現地観察やインタビュー、体験の共有といった手法を使います。ここでは、ユーザーの表面的な言葉だけでなく、「本当は何を求めているのか」「なぜそう感じるのか」といった内面に目を向けることが重要です。共感は、後の課題定義やアイデア創出の精度を大きく左右する、最も土台となるプロセスです。
②問題定義【Define】ユーザーの本当の問題を観察する
共感のプロセスで集めた情報をもとに、ユーザーが本当に抱えている課題を言語化するのが「問題定義」です。ここで重要なのは、企業や提供側の都合ではなく、ユーザー視点で何が「困りごと」なのかを再整理することです。
たとえば「アプリの操作が難しい」という声の背後には、「安心して使いたい」「迷いたくない」といった本質的な欲求が隠れていることもあります。課題を適切に定義できれば、以降のアイデアもより本質に迫るものになります。明確な問題の言葉に落とし込むことで、チーム内の共通認識も生まれ、解決の方向性がぶれにくくなります。
③アイデア・創造【Ideate】いろいろな解決策を考える
問題が明確になったら、次はその解決策を自由に考える「アイデア発想」のフェーズです。この段階では、正解や実現可能性にとらわれず、できるだけ多様な視点からアイデアを出すことが求められます。
ブレインストーミングやワークショップなどを活用し、チーム全員で「数」を意識してアイデアを広げていきます。重要なのは、批判せず、直感的・感情的な発想も歓迎すること。突飛に見えるアイデアの中に、意外なヒントや本質が隠れていることもあります。発散的に考えた後は、それらを整理し、次のステップに持ち込める実用的なアイデアへと絞り込みます。
④プロトタイプ【Prototype】考えたアイデアを視覚化する
アイデアを実際の形にしてみる段階が「プロトタイピング」です。ここでは、完璧な製品やサービスを作るのではなく、「考えたことを早く、簡単に、試せる形にする」ことが目的です。
紙のスケッチ、簡易なモックアップ、画面設計図、ロールプレイなど、表現方法は自由です。重要なのは、スピードと具体的な形にすることで他人にも理解されやすくなり、フィードバックを得やすくなること。さらに、自分たちの仮説の穴や課題にも気づきやすくなります。早い段階でアウトプットを視覚化することで、失敗のリスクを下げながら、より良い形へと進化させることが可能になります。
⑤テスト【Test】評価をしてもらう
最後のステップは「テスト」です。プロトタイプを実際にユーザーに使ってもらい、反応や意見を観察し、評価する段階です。ここでの目的は「答え合わせ」ではなく、「ユーザーとの対話を通じて、さらに学び、改善すること」です。
想定通りに使われなかったり、思いがけない指摘があった場合も、それは重要な発見です。フィードバックを受けて改善を加えることが前提なので、ここでの失敗はむしろ歓迎されるべきです。最初のステップ”共感”に戻ってデザイン思考を何度も繰り返すことで、よりユーザーにフィットしたアイデアへと近づけていく――これがデザイン思考の持つ“進化する設計”の強みです。
デザイン思考が生まれたきっかけ歴史
デザイン思考は、もともと建築や工業デザインなどの分野で活躍していたデザイナーたちの思考法に端を発します。1970年代ごろから、複雑な問題を扱うための柔軟な思考として注目され始め、1980〜90年代にはスタンフォード大学のデイビッド・ケリー教授が中心となって体系化されました。
彼が共同創設したデザインファーム「IDEO」は、デザイン思考を企業や製品開発に取り入れ、実践的な方法論として確立していきます。その後、スタンフォード大学に「d.school(Hasso Plattner Institute of Design)」が設立され、ビジネスや教育の分野にも広がりました。ユーザー中心、共感、試作と検証を重視するアプローチは、今やイノベーション創出の枠組みとして世界中で活用されています。
デザイン思考の使い方
デザイン思考は、単に「アイデアを出す」ための方法ではなく、「ユーザーにとって本当に価値のある解決策を見つけ、形にしていく」ための実践的なプロセスです。使い方の基本は5つのステップに沿って進めることです。
まずユーザーを観察し、感情や行動を深く理解する【共感】から始めます。次に、得られた情報をもとに、ユーザーが本当に困っている本質的な課題を定義【問題定義】し、そこに対する多様な解決策を発想【アイデア創出】します。その後、出したアイデアを具体的な形に落とし込む【プロトタイプ】を行い、実際のユーザーに使ってもらいながら検証【テスト】します。ポイントは、早く形にして早く失敗し、そこから学んで改善するというサイクルを繰り返すこと。
これをバナー制作に当てはめるとこのようになります。
共感:掲載サイトの雰囲気を知る(できるなら全て見た上でインタビューも実施する)
問題定義:今のこのバナーの課題点を考えてみる
アイデア:どうすればこのバナーをクリックしてくれるか考えてみる
プロトタイプ:何個か作ってみる
テスト:実装してみて確認・修正してみる
現場で使う際には、会議の前に簡易インタビューを取り入れたり、図や模型を用いた説明を挟むことで、議論の質を高めることができます。小さな場面からでも応用が可能です。
デザイン思考のメリット
デザイン思考の最大のメリットは、ユーザー視点に立った本質的な課題解決ができる点です。
共感や観察を通じて潜在的なニーズを発見し、形式にとらわれず柔軟な発想でアイデアを生み出せます。また、早期にプロトタイプを作成し、実際の反応から学びを得ることで、失敗のリスクを抑えながら質の高いアウトプットにつなげられるのも強みです。チームの対話や創造性も引き出せるため、組織内のコミュニケーション促進にも効果があります。
デザイン思考のデメリット
一方で、デザイン思考にはいくつかのデメリットもあります。まず、明確な手順があるようで曖昧な部分も多く、経験が浅いと形だけのワークショップで終わってしまうことがあります。
また、共感や試作などに時間がかかるため、短期成果を求められる現場では「非効率」と見なされる場合もあります。さらに、発想を重視するあまり、現実的な制約やビジネス要件が後回しになり、実行フェーズで壁にぶつかるケースもあります。適切なバランスが求められます。
Puzzle Effectのデザイン思考

まとめ
デザイン思考は、正解のない時代において、ユーザーに寄り添いながら価値を共創するための強力なアプローチです。共感から始まり、発想と検証を繰り返すプロセスは、あらゆる分野に応用可能です。小さな課題からでも取り入れ、創造的な変化を生み出してみませんか?