口形フォント

【なんとな〜く発音方法がわかるフォント】

教職での研修で京都聾学校に行かせていただいた時に気づいたことがあります。
耳が聞こえていないと、小学一年生、初めて『ひらがな』を見た時、どういう音でどう音を出せばいいのかわからないということに。
その課題に対する解決策がすでにあり『口形記号』というものが使用されていました。
でもそれでは文字も見て記号も見てで覚えることが多く大変です。
なので文字と記号を合体させて簡易化させることにしました。

きっかけ

教員免許を取得するために介護等体験を受けることがありました。
その際、京都聾学校に行かせていただきました。
聾学校とは、耳の聞こえない生徒、聞こえにくい生徒が通う学校で設備とサポートが揃っています。
京都聾学校では最新のICT授業や先生と子供のコミュニケーションの方法など、そのサポートと教育のレベルの高さに驚きとても勉強になりました。

その中で『ひらがな』を覚える時のことについてお話を聞きました。
生徒は耳が聞こえない子が多いのでその文字をどう発音するのかわかりません。

問題の明確化と分解

そのため教育の現場では『口形記号』と言うものを使用していました。
口形記号とは京都府教育委員会が出している五十音にそれぞれどのような口の動きをするのか記号で当てはめ、発音のサポートを行うと言うものです。
小学校1年生はひらがなを覚えるとき、ひらがなの文字の形と口形記号を覚えながら発音を確認することでやっと覚えることができます

健常者のひらがなを覚える手間に比べ、覚える手間とフローが多く、理解に時間がかかってしまいます。
特に歌を歌うときなんかは口形記号を見てひらがなを見て口形記号見て…ということをしていると曲のスピードに置いていかれ自己肯定感の低下に繋がりかねません。

大きく分けて3つ、学習する際に乗り越える課題があります。

①発音の学習

ひらがなは、音の記号であるため、聞こえない子供は、ひらがながどのような音を表しているのかを理解しにくいかもしれません。音の学習が困難であるため、文字と発音との関連付けが難しいです。

②音の長さや抑揚

聞こえない子どもにとって、音の長さや言葉の抑揚も理解しにくいかもしれません。これは、発音やアクセントに影響を与える可能性があります。
また、一つずつなら可能かもしれないが連続した文字の並びになった時の難易度がとても高い。

③難聴の種類

難聴にも種類があります。音が捻じ曲がったように聞こえる感音性難聴と、音が小さく聞こえる伝音性難聴があります。感音性難聴の場合は音を大きくしても聞き取る事ができません。

解決策の提案

これらの課題を解決するために、新しいフォントを開発することを提案しました。
このフォントは、ひらがなの文字と口形記号を組み合わせたもので、文字自体が発音方法をなんとなく示すデザインとなっています。これにより、文字を見るだけで発音のヒントを得ることができ、学習の手間や混乱を減少させることが期待されます。

口形フォントのひらがな文字に、直接口のシンボルを入れないことには深い意味があります。
目的が学習のサポートと周りと同じペースで進めるということだからです。
仮にシンボルが入った絵文字の場合、悪目立ちしてしまい周りとの差にショックを受けてしまうかもしれません。また人によって聞こえ方も聞こえる音量も違うので統一しながらも主観で判断できるものが必要でした。
そのため「あ」の文字には、口を大きく開けることを示すシンボルではなく口を大きく開けた口形記号をリンクさせたフォントになっています。

口形フォント

ひらがなの発音方法を文字を見ただけで伝える書体です。
母音ごとに形に特徴を持たせ口の動きを表現しました。
難聴の生徒は人の口や舌の動き、発音記号を見て発音方法を学びます。
そこで文字と発音方法をリンクさせ、発音を感覚的に理解できる書体を制作しました。

2019年 岡崎竜久 フォントの提案